結論: パワハラで辞めたいなら退職代行を使っていい
最初に結論だけ書いておく。パワハラを受けていて、もう辞めたいと思っているなら、退職代行を使っていい。胸を張ってどうぞ、とは言えない。ただ、甘えとは違う。少なくとも私は、半年経った今でも「甘えた」とは思っていない。
使う前の私は「退職代行なんて社会人としてどうなんだ」と思っていた。使った瞬間も「逃げた」という感覚が正直あった。それが半年経った頃、あれは逃げではなく「損切り」だったと腑に落ちた。損切りができない営業マンは結局もっと大きな損を抱える——営業時代に上司から散々言われたことが、皮肉にも自分の退職判断を正当化することになった。
判断軸は、3つ。
退職代行を検討していいサイン
- 朝、会社に行く前に体がおかしくなる(吐き気・動悸・呼吸が浅い等)
- 上司や役員の顔を思い浮かべた瞬間、話す気力が一切わかない
- 証拠の十分さとは無関係に、まず「離脱」が必要な状態
このうち2つ当てはまったら、もう私は止めない。当時の自分も2つどころか3つ全部当てはまっていた。
ちなみにエン・ジャパンが2023年10月に発表した7,700人の退職代行実態調査では、利用理由の1位は「退職を言い出しにくかったから」50%。私が「自分で辞めたい」と上司に言えなくなっていた時の感覚と、ほぼそのまま一致する数字だ。出典。
そもそも「これはパワハラ?」セルフチェック10項目(厚労省6類型準拠)
パワハラって、渦中にいる人ほど分からない。私も最後まで「自分が無能なだけでは」と思っていた。だから厚生労働省のチェックを借りる。
厚労省がパワハラ防止指針(令和2年1月告示)で定める6類型は、次の通り。
- ①身体的な攻撃(暴行・傷害)— 殴る・蹴る・物を投げる・胸ぐらを掴む等
- ②精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)— 人前で長時間怒鳴られる、人格否定(「お前は使えない」「存在が邪魔」等)
- ③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)— 会議に呼ばれない、連絡を共有されない、特定の相手と口をきくなと指示される
- ④過大な要求(業務上明らかに不要・遂行不可能なことの強制)— 一人では不可能な業務量・納期を指導なしで押し付ける
- ⑤過小な要求(能力・経験とかけ離れた程度の低い仕事の命令、または仕事を与えない)— 自分だけ雑務・掃除・コピーばかり回される、本来の職務を外される
- ⑥個の侵害(私的なことへの過度な立ち入り)— 交際相手・家族・病歴・思想信条を執拗に詮索される/社内で広められる
これに加えて、現場感覚で足したい4つ。
- 月曜の朝、会社のことを考えると胃が痛む
- チャットの通知音だけで心拍が上がる
- 同僚が詰められているのを見て「次は自分だ」と思う
- 家族や友人に職場の話をすると、毎回表情が曇ると言われる
3つ以上当てはまるなら、職場の方がおかしい。私は7個だった。
私がパワハラで限界を迎えた日の話
ここだけは長くなる。許してほしい。
新卒で入った化学系の専門商社には、2019年から2年いた。独立系でそこそこ規模のある会社で、配属は営業部。取引先は大手メーカー中心。地味だけど、仕事としては嫌いじゃなかった。
2021年4月、Wantedly経由で渋谷のITベンチャーに転職した。自社で美容製品を企画・製造するEC系の会社で、面接では「若手にどんどん任せる」「フラットなカルチャー」と何度も聞かされた。私は鵜呑みにした。今思えば、面接で社員の雰囲気をもう少し観察すべきだった。
入社して最初の半年は、面接で聞いた通りだった。コロナ禍の逆風はあったものの、社内にあった別の商材を提案して数字を作れていた頃だ。
変化は、入社から半年ほど経った頃に始まった。直属の上司と、その上の女性役員。2人ともある大手エンターテインメント企業の出身で、ヒエラルキーが絶対的なカルチャーをそのベンチャーに持ち込んでいた。
毎朝のチーム定例。私の担当案件の進捗を話すと、決まって「だめだわ」から始まる。「あんた、そこじゃないんだよ」「なんで分かんないの」「前職で何やってたの」。チームメンバーの前で、毎日20分ほど詰められる。反論すると倍になって返ってくるので、私はだんだん黙るようになった。黙ると今度は「反応薄いんだけど」と言われる。
11月、一度メールで退職の意思を伝えた。翌朝、上司は最寄駅まで車で迎えに来た。カフェに連れて行かれて、思いの丈を話すと、「まだ若いんだから、頑張りなさいよ。強く言うのはあんたに期待してるから」と言われた。その言葉にほだされて、残ることを決めた。
上司の態度は一時的に柔らかくなった。声のトーンが落ち着き、「だめだわ」が減った。でも、それは本当に1ヶ月だけだった。年が明ける前には、毎日の否定も、チーム前の叱責も、全部戻っていた。今度はもう、自分からは言い出せなくなっていた。一度引き止められた恩、あの時の優しさ——この矛盾に、体が完全に動かなくなった。
12月初旬、友人と京都旅行に行った。1泊2日の短い旅。紅葉を見ても、鳥居をくぐっても、心の真ん中に鉛のような重さがずっと居座っていた。
帰りの新幹線で、友人にすべてを話した。これまで誰にも言えていなかったことを、その車中で2時間かけて話した。友人は最後まで黙って聞いてくれた。そして一言、「辛いなら辞めちゃえよ。お前なら別のところでもやっていける」と言った。
東京駅で別れて、家に帰ってきた。玄関のドアを閉めた瞬間、何の前触れもなく涙が出た。
日曜の夜22時すぎ、スマホで「退職代行」と検索した。いくつか比較サイトを見て、労働組合が運営している退職代行Jobs(ジョブズ)のLINEに相談を送った。震える手で送った——というのは比喩じゃなくて、本当に指が震えていた。深夜にもかかわらず、30分ほどで返信がきた。月曜朝の連絡で問題ない、と。料金は27,000円、支払いは振込。そう伝えられて、私は決めた。
月曜の朝9時、Jobsから会社へ連絡が入ったと通知がきた。10時過ぎに「退職成立しました」と連絡がきた。会社の誰とも話していない。上司からの鬼のような着信が2回、スマホに残っていた。出なかった。
当時のLINEのやり取りや、退職後に母に報告したときの話は別の体験談記事で詳しく書いている。
パワハラ被害者に退職代行が効く3つの状況
自分の経験と、その後いろんな人の話を聞いて分かったのは、退職代行が特に効くのはこういう状況だ。
私の場合、辞意を伝える相手が、まさに私を詰めている当人だった。第三者に入ってもらうしかない。しかも一度11月に自力で退職を伝えたら、翌朝駅まで迎えに来られてカフェで撤回させられている。2回目を自分で言う気力は、もう残っていなかった。話す・説明するエネルギーが完全にゼロ、というのが当時の正直な感覚だった。
この3つが重なった瞬間、退職代行は「あってもいい選択肢」から「これしかない手段」に変わる。
逆に、退職代行を使わない方がいいケース
退職代行が最適解じゃないケースもある。ここは正直に書いておきたい。
慰謝料や損害賠償を本気で取りに行きたい場合、退職代行だけで完結させるのは得策ではない。退職手続き自体はできても、損害賠償請求は別レイヤーの話になる。弁護士に相談してから動いた方が、証拠保全の順番も含めて綺麗に進められる。条文の中身は弁護士の領分だ。
まだ話し合いで解決する余地がある場合、退職代行は「最終手段」であって「第一手」ではない。社内に信頼できる人事がいる、産業医面談が機能している、異動希望が通りそう——こうした道がある人は、先にそっちを試してから考えていい。
在職中に労災申請を進めたい場合も、会社との関係が完全に切れる前に準備すべきことがある。これは弁護士か社労士に先に相談した方がいい。順番を間違えると証拠が取りにくくなる。
自分で「辞めます」と言えるなら、それが一番早い。言えないなら、言えないこと自体がもう答えだと思う。
パワハラ退職で選ぶ運営形態——民間・労組・弁護士の使い分け
退職代行サービスには、運営形態が3種類ある。ここを知らずにサービス名だけで選ぶと、後で「できると思ってたことができない」が発生する。
民間運営は、会社への退職意思の伝達(連絡代行)しかできない。有給消化や退職日の調整など「会社と条件を交渉する」行為は、弁護士法72条が禁じる非弁行為にあたるおそれがあるため、民間業者は行えない。料金は比較的安めで、相場は2〜3万円。
労働組合運営は、団体交渉権を持っているので、有給消化や退職金などの「交渉」まで踏み込める。パワハラ退職で「有給全部使い切って辞めたい」「即日離脱したい」という希望があるなら、労組運営の方が安心だ。料金は25,000〜30,000円あたりが相場。
弁護士運営は、交渉はもちろん、慰謝料請求・損害賠償・未払い残業代の請求まで法的に動ける。基本料金は5〜10万円程度。未払い賃金や慰謝料の請求まで依頼した場合は、回収額に応じた成功報酬(20〜30%程度)が別途かかることが多い。金銭的な請求まで射程に入れるなら、最初から弁護士一択。
私は迷わず労組を選んだ。金銭請求までは考えていなかったけど、有給15日は絶対に使い切りたかった。弁護士だと5万円超。民間は2万円台で安かったけど、有給交渉ができないのがネックだった。間を取って労組、27,000円。
証拠を残しながら辞める準備リスト
これは、当時の私がちゃんとできていなかったことだ。反省も込めて書く。「退職代行 パワハラ 証拠」で調べている人に向けて、最低限これだけはやっておいた方がいいもの。
まず録音する。ICレコーダーでもスマホでもいい。会議前にポケットの中で録音ボタンを押すだけ。最高裁平成12年7月12日判決などで、自分の身を守るため・後日の証拠として会話を録音することは、相手の同意を得ていなくても違法ではないとされている。ただし録音音声を第三者に拡散したりSNSに公開するのは別問題なので、あくまで自分用の証拠として保管する。
次に、パワハラ的な発言が含まれるチャット・メールのスクリーンショット。Slackは後から消される可能性があるので、気づいた時点で画像として保存する。日時が写るようにする。
自分で書く日記・メモも効く。日付・時刻・場所・発言内容・同席者・自分の受けた影響を、その日のうちにスマホのメモに残す。後から裁判で戦うとなった時、日記の記録は強い補強材料になる。
眠れない、食欲がない、朝起きられないという状態になっているなら、心療内科か精神科を受診する。「適応障害」の診断書が出れば、傷病手当金や労災の検討材料になる。無理せず行ってほしい。
最後に、給与明細・雇用契約書・就業規則のコピー。退職金・有給残日数・未払い残業の計算に必要になる。退職直後に会社からもらうのが難しくなる書類もあるので、在職中に自分のGmailに送っておくのが無難。
当時の私の反省
退職代行利用当日の流れ(私のケースを時系列で)
当日のスケジュールを、時刻ベースで残す。これから使う人のイメージ材料になればと思う。
- 日曜 22:10退職代行JobsのLINEに相談送信。震える手でパワハラの状況と翌朝から出社できない旨を伝える
- 日曜 22:45Jobsから返信。状況ヒアリング(会社名、雇用形態、辞めたい日、有給残日数、貸与品の有無)
- 日曜 23:30料金27,000円を指定口座へ振込。振込完了をLINEで報告
- 月曜 9:00Jobsが会社へ電話連絡。退職の意思を伝達
- 月曜 9:20上司から着信(出ない)
- 月曜 10:15退職成立の報告がLINEに届く。貸与品は着払いで返送OK
- 月曜 午後貸与PCを段ボールに詰め、コンビニから発送
- 後日離職票・源泉徴収票を郵送で受領(約2週間で届いた)
出社なし、上司と一言も話さず、12時間で退職が成立した。人生でこんなに劇的に局面が変わった1日はない。
後で調べたら、民法627条1項に「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」と決まっていた。Jobsの人もそれを根拠に動いていたらしい。法律上、辞める権利は労働者にある、ということだけは覚えておいて損はない。
パワハラ退職でよく聞かれる論点Q&A
Q. 有給は使い切れるのか?
労組運営・弁護士運営なら交渉可能。民間運営は基本的に交渉できない。私は残有給15日を全部申請して、退職日までの期間を有給消化に充てた。Jobsが会社と日程調整してくれて、出社せず消化できた。
Q. 退職金は出るのか?
会社の退職金規程による。私の場合、勤続1年未満だったので規程対象外で0円だった。これから使う人は、就業規則のPDFを在職中に自分のGmailへ送っておくといい。
Q. 慰謝料や損害賠償は取れるのか?
弁護士相談推奨。証拠の質と量、受診歴、勤続期間などで見込みが変わる。退職代行で同時に進めるなら弁護士運営のサービスを選ぶ必要がある。
Q. 傷病手当金はもらえるのか?
健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)の継続給付という仕組みで受給できる可能性があります。①退職日まで継続して1年以上の被保険者期間、②退職日時点で傷病手当金を受給中または受給できる状態、③退職後も同じ傷病で働けない状態が続いている——この3条件を満たせば、退職後も支給開始日から通算1年6か月まで受給できます。個別の判断は加入している健康保険組合か協会けんぽへの直接問い合わせが確実です。
Q. 損害賠償を会社から請求されないか?
通常の退職(引継ぎを可能な範囲で行うなど、信義則に反しない退職)が会社への損害賠償事由になるケースは実務上極めて稀です。「辞めたら損害賠償する」と会社が脅してくることがありますが、ほとんどは法的根拠のない脅し文句です。不安があれば弁護士に相談してください。
よくある後悔パターンと回避策
自分と、自分の周りで退職代行を使った人の話を総合すると、後悔パターンはだいたい3つに収束する。
一番多いのが貸与品の返却でトラブル。PC・社員証・制服などを、退職代行経由で日程を決めず放置すると、後から会社が内容証明を送ってくるケースがある。着払いで速やかに返送、発送伝票は必ず保管。これで9割の後処理は済む。
次に離職票が届かない。退職代行を使った会社が嫌がらせ気味に発行を遅らせる例がごくたまにある。2週間経っても届かないなら、ハローワークに相談すると督促してくれる。覚えておくと後で楽だ。
最後はSNSで前職の愚痴を書いて揉める。気持ちは本当に分かる。私も辞めた直後は書きたかった。でも固有名詞を出すと名誉毀損のリスクがある。書くなら完全に匿名で、固有名詞なしで。数ヶ月は我慢した方がいい。
私がJobsを選んだ理由
当時、私が検討したのは3社だった。退職代行Jobs(ジョブズ)、民間系の某サービス、弁護士法人みやびの3つ。
民間系は料金が2万円台で安かったけど、有給交渉ができない点がネックで落ちた。私は15日分の有給を使い切りたかった。
弁護士法人みやびは交渉・慰謝料請求まで射程に入る強みがあったが、基本料金が5万円超で、その時の私の財布には重かった。金銭請求まで戦う覚悟がまだなかったのも大きい。
結果、労組連携型で有給交渉までカバーできるJobsの27,000円に決めた。深夜にLINEで相談できるスピード感も、追い込まれていた当時の私には救いだった。
今振り返っても、この選択は正しかったと思う。ただ、これはあくまで私のケース。自分の状況に合わせて、料金・運営形態・対応時間を見比べて選んでほしい。
サービス比較は退職代行サービス比較ランキングに10社分まとめてある。運営形態・料金・対応時間で絞り込める。
✓ 筆者が実際に利用したサービス
退職代行Jobs(ジョブズ)
¥27,000 / 顧問弁護士×労働組合連携 / 24時間即日対応
迷っているあなたへ
ここまで6,500字くらい書いてきた。読んでくれてありがとう。
当時の私に声をかけられるなら、私はこう言う。
退職代行は、社会人として恥ずかしい選択肢ではない。むしろ、自分で自分の離脱を決められた、という一点において、十分に大人の判断だ。パワハラ加害者に「辞めます」と伝える義務は、被害者側にない。あの人たちに、あなたの最後の言葉を使わせる必要はない。
辞めた後、私はプログラミングスクールに4ヶ月通って、2ヶ月転職活動をして、今はリモートと出社のハイブリッドでエンジニアをしている。月曜の朝に吐き気で目覚めることは、もうない。
あの夜の自分は、よくLINEを送った。偉かった。あなたの明日も、そうやって自分で助けていい。